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キノコの1 まずは一番強烈なバッド体験から書き始めようと思うのだ。別にはじめに「ドラッグはこんなに怖い一面がありますよ」なんて啓蒙するためじゃあぜんぜんなくて、人に話して一番ウケるのがなんといってもバッド体験だからなのだ。バッド体験は究極に怖いけど、過ぎればサイコーのドラッグジョークになってくれる。だからみんなも進んでオーバードーズしてみると良いですよ。笑 いつもキノコを購入していた渋谷のとあるヘッドショップ。いま思い出しても夢のようだが、そこではキノコ2HITが1500円ほどで売られていたのである。それにかまけて当時は週末がくるたびに必ずキノコでトリップしてたのだ。いやあ、さすがに若いというのは体力だけはある。いや、いまでも売ってればおいらのことだから毎週トリップしてるか。笑 まあとにかく、いつものようにウキウキ気分で出向き、顔見知りの店員に「いつもの」なんて頼んでみると「ウキオくん、今日はちょっといいものがあるよ」といってカウンター裏の小型冷蔵庫からなにやらごそごそ取り出してきたではないか。一体何が出てくるのかとエビス顔のおいら。 さてここに取り出したるはのブツを見るとそれは、いつものしおれたこげ茶色のパサパサ乾燥キノコではなく、全長10数センチはあるかと思われる生キノコだったのだ。その色も「蛍光ライトグリーン! 私、光ってます!」という感じでなんとも神々しいのである。なんだか味付け海苔で巻いてさしみ醤油につけて食べると美味しそうなのである。「値段はちょっと高いけど…」という店員さんの声をらく〜に振り切って即GETし(実際、乾燥キノコに比べてほんのちょっとだけ高いだけであったしね。かいぐりかいぐり)、満面のキノコづらで帰路を急いだのだ。 さて、家に帰ってさっそくホクホクといつものキノコの旅へのセッティングを開始。まっさきにするセッティングそのいちは、なによりも先にキノコを喰べること。笑 効いてくるまでに一時間弱ほどかかるのでその間にいろいろ他のセッティング作業をするための賢いダンドリといえば聞こえはいいが、実のところこらえ性のないサル状態なだけともいえる。 いつもの不味い乾燥キノコ(というのが通説だが、おいらは乾燥キノコの味も結構好きだった)とは違い、味もジューシー&フルーティ。2本買ったうちの1本をキノコの神様に感謝しながらハグハグと一気に喰べたのである。蛍光ライトグリーン色の愛いやつが、乾燥モノに比べ(後に分かったことだが)体感にして25倍ほどの怖ろしい威力を込めていたとも知らずに…。〔この章続く〕 2010.01.14 キノコの2 そのころの定番トリップコースは、まずキノコを食した後にお気に入りのプログレ・バンドのCDをプレイヤーに突っ込み、布団に潜り込んでヘッドホンを装着して大音量で聴くことであった。 いやもうこれが凄いの何の、キノコの神様が迎えに来た時点で、おいらはもうバンドの熱狂的ライブに参加しており、最前列でヘドバンしたり、一緒にジャムってみたり、ときにはカメラさんになって縦横無尽なカメラワークで演奏を鑑賞してみたりと、現実のライブ以上の興奮が待ち受けているのだ。 大好きな映画のサントラでもそう。クライマックスのシーンのBGMをかけようもんなら、本当に映画の世界へとクランクインして同じ空間で感動のシーンをニヤニヤ見ているという、そこはサーカム・サラウンドの世界。それはもう幻覚の域を超えて幻体感という感じだったのである。 その日はなんせ生キノコなんていう素晴らしいブツを手に入れてのトリップだったので、気分はもうアイテムキノコを手に入れたマリオの気持ちだったのだ。いつものようにキノコを喰べてヘッドホンを装着して布団に潜り込んでワクワクしていたのだが…、ん? なにか勝手が違う。こ、これはヤヴァい!! この感覚は前にも経験したことのあるバッドなのだ。それも前のとは比べ物にならないくらいの速さでグォングォンとバットの世界へ強制連行されているではないか。ヤヴァいヤヴァいヤヴァいヤヴァい…。 とりあえず布団から飛び跳ね起きて部屋の中をグルグル徘徊してみるがなんの対策にもならない。それどころか部屋が自分の徘徊するスピード以上の速さでグニャグニャ回転してるのだ。ヤヴァいヤヴァい。 そうだ、こんなときこそ素晴らしき腐れジャンキー友達のことを考えてみれば何かの助けになるかも…と、数人の顔を思い出してみるも、どれも己の妄想が産み出した架空の人物に思えてくるのだ。そして意地悪な表情と化したキノコの神様が耳元で囁く。「そうさ、どいつもこいつも、この世界だってオメエが産み出した妄想の産物なのさ。オメエはこの世界で一人っきりなんだよ」って、ええーッ!? ちょっと今回強烈すぎるんですけど…。 完全にくるくるぱーになった頭でじっと考える。「そうだ、もうこうなったら強い酒をかっくらって寝てしまおう」そう決心したおいらはパーカーを着て財布を持って外へ飛び出したのだった。そこが悪鬼や死神がわんさと待ち受けてる、楽しい楽しい地獄の迷宮と化しているとも知らずに…。〔この章続く〕 2010.01.17 |